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スマさん世代の腐った文字書きが好きなものは好きと無駄に叫ぶ

すうねるところにナマムライ

一年の新潟住まいを経て東京に戻ることが決まった日、迷わずチケサイトヘGO! 2日に石井一孝20周年コンサートにいくことにしていたので諦めていた、村井良大くん出演のすうねるところを探すため。
だってねぇ、「東京にいれば行ったのになぁ…」と思っていたわけですし、「いるなら行かねば」となるでしょう? これだけ舞台出演が続いているなら、舞台の評価もいいはず。気になる人は見ておかねば、となるわけです。

幸いにして千秋楽の入手に成功!ということでいってきました。(ちなみに里見八犬伝のチケットも入手しましたさ)
ミュージカルが中心とはいえ、いろいろな劇場には行っているつもりですが、意外に初体験のシアタートラム。併設の世田谷パブリックシアターが好きだったので期待が高まります。

暑さに辟易しつつも、劇場へ。レンガ造りの小さな入り口が好きですねぇ。入り口だけできた会があったと思わせてくれる劇場は素敵です。

ちょうど開場時間についたのですが、当日券を待つ人、立見待ちの人数に正直驚きました。しかも客層が手堅い。20代後半から40代前半くらいの男性も多い。客席全体としても男性比率は高めかもしれません。なぜ?と思いつつ、よくよく見れば脚本が木皿泉「すいか」野ブタ。をプロデュース」「Q10」等のテレビドラマを書いている夫婦脚本家で、私自身は意識したことはありませんでしたが、確かに面白くて悲しいいい脚本が好きだった作品を書いている方々です。しかも、薬師丸ひろ子萩原聖人篠井英介とくれば…死ぬほど芝居を見ていた15年前の自分も確かに観るな…と納得。

客席に入ると、いすは少し固めで急勾配な客席ですが、小劇場っぽくて好き。舞台との近さは格別です。
セットはすでに板付き。揚がるまで何が待っているかわくわくさせる緞帳も好きなのですが、誰も仕込みをしていない、芝居の中の世界は確かにどこかで進行しているはずなのに、今は何もない。ある意味見るものを遮断するようでいて、惹きつけてやまない緊張感をはらんだ板付きのセットは大好きです。今回は舞台となるパン屋併設の古住居の感じがなんともいえません。レトロな昭和の空気を感じさせる調度がいとおしい感じ。近所にこういうお店、あったよなぁ。 誰も存在していないのか、留守なのか、寝ているのか。そんな空気をすでに醸し出しています。

話はシンプル。
商店街の一角で、なぜか夜だけ営業するパン屋。それもそのはず営んでいる住人が吸血鬼(薬師丸ひろ子篠井英介萩原聖人)だからだが、吸血鬼であることは隠している。高校生の息子・マリオ(村井良大)だけが日中に活動する普通の生活を送っているが、反抗期まっただ中なことが吸血鬼達の悩みの種。男・女・老女・少年…一見「家族」のように見えるが「家族」ではない。ある日、息子の隠しごとを吸血鬼達が見つけたことから関係に変化がが生じる…。
という感じ。

とにかく吸血鬼達が愛おしい。テレビを見て、(日光を避けながら)いやいや店の開け閉めをして…お気に入りの話題は「マリオを拾ったときのこと」。どうしようもない会話がテンポ良く繰り返し繰り返し続くように見える。この繰り返しが秀逸なのだ。
「あれ、私たち何の話をしていたんだっけ?」この感じは良く起こる。普段の営みに埋没している時に往々にして発生するこの事象が、彼らが人間であったことを感じさせてくれる。また、子供がかわいかった頃の印象的なシーンというのは何度話しても飽きない。これらの会話だけでも家族というもの、生きていることへの愛がひしひしと伝わってくる。何気ない「あるある」という感じだからこそいいのだ。
総じて吸血鬼達のテンションは高い。家族の中って、たぶんこんな感じ。何一つ取り繕っていないのに、あんまり大事なことをきちんと話していない。3人の役者さんの良く響く特徴的な声の響き、なんとも言えない存在感が、おかしみを増し、現実感を引き立たせる。
その分、普通であるはずのマリオの居心地悪さもまた際立つのだ。マリオが持つ秘密。この秘密はどこでも起こりそうで実は起こりにくい。吸血鬼の日常のほうがよっぽど普通。生きているって難しくて愛おしくて奇妙、という感覚が染み込んでくる、そんな印象だった。

たった4人の芝居。普通に見せかけている変な人が3人。非日常で日常に気づく普通の人が1人。かなり、難しい芝居だと思う。薬師丸さんも萩原さんも篠井さんも今更ながらすごいなと思ったのだけれど、萌えさせるとかそういうこととと離れて、丁寧に芝居を作り上げた村井くんを見ていて、「気になるわけだ」と納得した。

自分と自分の役の立ち位置の見極めとその表現が抜群にうまいのだと思う。カーテンコールでも彼はマスコットでも後輩でもなく共演者として立っていた。これだけのキャリア・年齢の差があるとともするとそうなりがちなのだが、変に浮ついていないのだ。かといって偉ぶっているわけでもない。
彼の仕事をきちんと追いかけてみたいと、改めて感じた。

ということで、かなり作業は大変だけどやってみることにする。
あー楽しい。