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スマさん世代の腐った文字書きが好きなものは好きと無駄に叫ぶ

なんかいろいろ惚れてみる

 シアターコクーンでやっている蜷川幸雄演出・東山紀之主演「さらば、わが愛~覇王別姫」に行って参りました。なんかいろいろ思うところの多い舞台なんですが印象深かったので残しておきます。

 とりあえず「無条件に最高!」とは言えない感じだったんですが、たぶんそれは期待が異常に高かったのと、ヒガシファンではないってあたりが原因でしょうか。
 音楽劇なのか、芝居なのか、京劇をきっちり盛り込むのかがどうもメリハリないな、という消化不良は少し感じています。そういう意味ではレスリー・チャンが主役の蝶衣を演じたの映画が鮮烈すぎたんだろうと思うんですがね。あとは、ヒガシが女形とはいえ女言葉だったあたりがなぁ。女形の女言葉にしては芯がないんだよね。にじみ出る感じじゃなくて、無理にそういう言葉を使ってる感じで。どっちでもないやわらかい言葉なら彼の口調に合ったんだろうと思うけど、それは脚本なんだから仕方ない。…いや、仕方なくないか、消化して欲しいところではある。あとは、もうちょっと猫背じゃないと良かったんだけどなぁ。ポスターより姿勢が悪く見えたのは身長のせいなんだろうか。小さく見せようとしすぎてる気が…一緒に行ったヒガシファンの友人はそう感じていなかったので、私の目がゆがんでいるのかもしれない。

 とはいえそれを差し引けば「良かった」と思います。
 アンサンブルキャストの動きもストイックで綺麗。人間の体ってすごいよなぁと筋肉に惚れ惚れ。一番前にいたモヒカンの兄さんが動きを省略していて他とずれてるのが気持ち悪くてしょうがなかったけど、ダンサーらしいし個性と思うことにしました。
 メインキャストはよかったなぁ。
 西岡徳馬さんがねぇ、一つ間違うとエロ親父になる役なのに、あったかくてかっこいい。いいよねぇ、主人公のことを好きなんだけど愛されてはいない一番の理解者って。このポジションはかなりツボ。しかも、彼が語る「京劇の美」が主人公の「役者の性」そのもので、鮮烈。セットの蓮が余りに作り物でいただけなかったけど、何かを埋めあうようなベッドシーンはいろんな意味でくすぐられる。以前、藤原竜也=バッサーニオ・西岡徳馬=アントーニオのヴェニスの商人でも思ったけど、包み込むゲイ的な愛が異様に似合う。悲しくて切なくて大きくて…、いやぁテレビより舞台で見たい役者さんです。
 木村佳乃ちゃんは、ツンとした色気というのかな、チャイナ服がもんすごい似合う。ラストシーンが人形じゃなく本人だったら相当綺麗だろうと思うけど、あの流れでは無理だろう。(ネタばれになるから書けないけど)紗幕の向こうでアヘンの中毒症状が出ている蝶衣を抱きしめるシーンが、母性の喪失と嫉妬があいまってすっごい綺麗。紗幕の向こうってあたりがたぶん引き立っているのかもしれないけど。
 蝶衣の悲しさを引き立てたのは、たぶん小樓の遠藤憲一さんの「大きくあったかく見える普通さ」だと思う。蝶衣の執着が納得できる大きさやまっすぐさがあるのに、徳間さんと比べるといい感じに「普通の男」。彼が男の弱さを見せるほど、色っぽいのは何でなんでしょうね。ラストがだだっこみたいでかわいいったら。映画ではなんでこいつがいいんだ?と思った記憶があるんですがね、もう、「ばかな男ほどかわいい」になってしまうから不思議。彼が普通だったからこそ悲劇なんですけど、その居方が良いです。

 でも、実は一番ノックアウトされたのカーテンコールだったりします。一番ヒガシがかわいかったんだよ。虞姫の衣装をつけてはにかんだようにたってて、みんなに囲まれてるのがね。まだ何かが残っている感じだからか、蝶衣ガ幸せだったらこういう顔でいたのかも、と思えてね…。眼福でした。

 この作品についてはおそらく時代のこととか語るべきことがあるのだと思うけど、でも私が感じるのは価値観が違う愛は並び立っていきつづけることはできないって事だったりする。良くない楽しみ方として、ええ、心引き立つ舞台でございました。。